「おすすめ1冊紹介」始めました。
ジュンク堂書店あべのハルカス店のご協力により、おすすめ本を紹介させていただくことになりました。
記念すべき、最初の1冊は自然科学分野より
『グリム童話と森 ドイツ環境意識を育んだ「森は私たちのもの」伝統』森涼子 著
谷崎潤一郎が、「虚無の空間を任意に遮蔽して自ら生ずる陰翳の世界」(『陰翳礼讃』)が東洋の文化の根底にはあるのだと言ったように、ドイツの人々の文化や生活の根底には、恒久なる「森」がある。 ドイツ人の森林観を理解することは、ドイツの歴史と文化を研究する上で不可欠である。
例えば、グリム童話の主人公が皆、何かしら不遇な人生を送っているというところから始まるのは、当時のドイツが国際社会において弱者であったからであり、不遇な人生の転機となる場(事件の起きる場)の多くが「森」であるのは、「森」が恵みの場として人々とともにあったからなのだ、という指摘は、グリム童話の読み方を一変させるであろう。
人々の「森」礼讃が先にあったのか、物語としての「森」が先にあったのか定かではないが、「試しに電燈を消してみることだ」と説く谷崎に倣って、本書読了後「試しに森へ行ってみることだ」。
築地書館 二〇〇〇円
『書標』2017年2月号に掲載